新たな細胞動態学:担癌宿主における免疫担当細胞の臓器間移動


文責: 上羽 悟史(UEHA, Satoshi)
Last Update: 7 Jun. 2013
炎症・免疫学を理解する上で、単球、樹状細胞、顆粒球、TおよびBリンパ球などの免疫担当細胞の生体内における動態(どこで生まれ、どのような臓器に移動、滞在し、死ぬか)と細胞種間相互作用(どのような細胞と出会い、影響を与える(受ける)か)の理解は不可欠です。例えば、癌の増殖を促進するとされる腫瘍関連マクロファージは、骨髄や脾臓などで産生され、血流を通じて腫瘍局所に供給され、免疫抑制、血管新生や組織再構築に関与します。当研究室では、photoconvertible protein “Kikume green-red”および細胞周期インディケーターFucci (Fluorescent Ubiquitination-based Cell Cycle Indicator)などの日本発新規蛍光レポーターシステムを用いて、担癌宿主における免疫担当細胞動態の詳細解明と、数理モデルの確立を試みています。

従来の細胞動態解析では、正常または疾患モデルにおいて特定の免疫表現系を持つ白血球細胞集団(マウス単球ならLin(-)CD11b(+)Ly-6C(hi)Ly-6G(lo))を、骨髄、末梢血および腫瘍組織など臓器ごとに経時的に定量するとともに、移動については臓器から調整した細胞の養子移入で、増殖やターンオーバーについてはBrdU等の核酸類自体の取り込みで評価していました(Sawanobori et al. Blood 2008)。しかしながら、これらの解析方法では、細胞が臓器から血流に入る過程や、臓器滞在時間を評価することは困難でした。当研究室では京都大学戸村博士との共同研究のもと、KikGRを細胞動態解析に応用することで、特定の臓器に存在する細胞をin vivoで標識し、これらの細胞がどのような速度(cells/hr)で血流に入り、他の組織に分布していくのか、定量することが可能になりました。さらに、これらの動きを数理モデル化することで、これまで見過ごされてきた細胞の挙動も見えてきました。また、Fucciの応用により、生体内における免疫担当細胞の正確な増殖部位を明らかにするとともに、特定の細胞周期にある細胞をソーティングし、遺伝子発現および機能を解析することが可能になりました。これらの新たなツールを用いて、炎症・免疫応答時の免疫担当細胞の動態学に新たな1ページを加えるとともに、癌や炎症性疾患における新たな治療標的の同定につなげたいと考えています。