ケモカインのプロトタイプ、IL-8とMCAF/MCP-1の発見物語

松島 綱治


NIH留学とヒトIL-1の精製
私と吉村禎三による米国National Institutes of Health (NIH)でのケモカインのプロトタイプ、IL--8とmonocyte chemotactic and activating factor(MCAF)/monocytes chemoattractant protein(MCP)-1の発見を理解していただくためには、私のNIH留学当初のIL--1研究を紹介する必要がある。

私は、金沢大学がん研究所での大学院時代今は亡き右田俊介教授の基でヒト血清蛋白の精製と炎症時に産生誘導される急性期相蛋白質の生合成に関する仕事に従事した。1982年学位を授与された後、10月の下旬から急性期相蛋白質の産生が活性化マクロファージ由来のIL--1様因子によって誘導されるといことを発表したNational Institute of Dental Research (NIDR),  NIHのDr. Joost J. Oppenheim(私たちは彼をJoeと呼ぶ)のところに留学することになった。Joeは当時40代後半で脂ぎった時であり、私への最初の質問はWhy do you have to come here? What do you want to do here? Why should you do it? ------ and, then so What? であった。私は、「IL-1を精製し、急性期相蛋白質産生誘導活性のみならず、免疫活性化作用など複数の活性が単一分子によって担われていることを証明するために来た」と説明したが私の英語力ではなかなか納得してもらえなかった。NIHのメインキャンパスBethesdaでは実験目的の血液供給には限りがあり、かつ研究室で4人目の同一テーマを独立して行うこととなったため十分血液を手に入れることができなかった。それゆえ、私はIL--1の精製の材料として胎盤を選び、出産があったといえば近くの病院に胎盤をもらいに行った。1パウンドの肉片を1 cm角にはさみで刻み、コラゲナーゼとトリプシンで処理しsingle cell suspensionにして培養を行うという文字通り血みどろの途方もない仕事を開始した。しかし、この作業は周囲の研究者を迫力で圧倒するのには成功したが、胎盤はIL-1のよい源とはならなかった。 1983年の2月には、NIHのメインキャンパスから数十マイル北にあるFrederickのNational Cancer Institute (NCI)の支所にJoe、他2人のフェローと異動することになった。FrederickのNCIは、陸軍基地であるFort Detrickの中にあり、メインキャンパスとは対照的立地であった。しかし、研究条件はすばらしく、貧乏なNIDRとくらべ研究費は潤沢であり、大量の正常人血液が毎日病院から研究目的に供給された。また、Frederickには100〜1000 L単位で細胞を培養できる施設 (fermentationという) が存在した。Frederick異動後は他の研究者と血液の取り合いをすることなく、1週間に正常末梢血単核球1010(2人分の全血液に相当する)を使い1年以内にヒトIL-1の精製に成功し1)、生理活性体のアミノ末端配列を決定することができた。その後、プログラムデイレクター、Dan Longoから数千万円の特別予算をつけてもらい、単球性白血病株THP-1細胞をfermentationで500 L培養し、培養上澄と細胞抽出物両方から同じ活性とアミノ末端配列をもつヒトIL-1αとIL-1βを精製することができた2)。血清を含む大量の混雑物の中から数μg(約100 pmole)の宝をHPLC(高速液体クロマトグラフィー)を駆使して得ることは、今でも至難の業である。当時のエドマン分解によるアミノ酸配列決定には100pmole(今は10 pmole、またMSでは1 p〜100 fmole)必要で、これさえ決まればcDNAをクローニングできた。

私は、IL-1の精製には世界的競争に渡米後1年で打ち勝ち世界のひのき舞台に上ることができたが、cDNAクローニングはMIT, Immunex, Rocheのグループに負けた。しかし、IL-1に蛋白質としても2種類、すなわちαとβ体があることを確認し、IL-1の成熟体のアミノ末端配列を最初に示すことができた。また、同じ形のIL-1βが培養上澄からも細胞抽出物からも取れる、すなわち細胞中にIL-1β前駆体を成熟型に変換する分解酵素が存在することを実証した。当時、IL-1βのcDNAクローニングに成功したMIT/Boston UniversityのグループはIL--1βの成熟体のアミノ末端が判らないため組換え蛋白質に生理活性を検出することができず、彼らが本当にIL-1βを精製したのか疑問視され、Nature誌は彼らのpaperをrejectした。IL-1βのアミノ末端が1個でもずれると生理活性が無く、私の蛋白質精製を通して得た情報がいかに重要であったか、理解していただけるものと思う。また、THP-1細胞中にIL-1β前駆体を成熟型に変換する分解酵素が存在することは、数年後ImmunexのグループがTHP-1細胞抽出物からIL-1β converting enzyme (ICE、Caspase 1、今日細胞のアポトーシスを制御する酵素として最も有名な酵素)を精製、クローニングする仕事につながった。


ケモカインのプロトタイプ、IL-8とMCAF/MCP-1の発見
IL-8の発見には少し複雑な背景がある。1980年当初から、NIDRの研究者らによって活性化白血球の培養上澄中には好中球や単球などに対する遊走因子があることがあることが報告されていた。しかし、免疫学者にとってその生物学的意義はまったく判らず、白血球遊走はin vitro artifactではないかと思われていた。私がNIHに留学する直前、Joeの研究室からは皮膚角化細胞が産生するIL-1の部分精製物に好中球遊走活性があること、イタリアのAlbert MantovaniのグループからはTNFに好中球・単球遊走活性があることが報告された。しかし、私の精製したIL-1α、IL-1βにそんな活性がないことが、白血球遊走因子を長らく研究していたEdward Leonard(Edと呼ぶ)に調べてもらうことによって判明した。もちろん、私は直ちに活性化白血球培養上澄に存在する好中球遊走因子を精製しようとEdに提言したが、これは自分でやりたいと言って4〜5年が無駄に経過した。そこに、熊本大学から吉村君がEdの研究室に留学してきた。そこで、吉村君に好中球遊走因子に関わるEdとの経過を話し、共同でその本体を突き止めることを提案した。まず、再度私の精製IL-1、遺伝子組換え型IL-1、TNFに報告されているような好中球遊走活性がないことを確認した。そこで、私がもらっていた大量の正常人血液を用いて、生化学的にその本体を同定する仕事に着手した(もちろん、このプロジェクトはEd、Joeに内緒のプロジェクトであった)。HPLCゲルろ過法で容易にIL-1/TNF活性と好中球遊走活性が分離できた。その後、3ヶ月ぐらいで4 Lの培養上澄から100μgの見かけ上単一の好中球遊走活性を有しIL-1/TNF活性を全く有さない蛋白質が精製できそのアミノ酸配列もアミノ末端から42個決まった。しかし、4 Lの培養上澄から100μgとはIL-1の精製のときの数十倍の収量であり、好中球遊走活性が見かけ上の精製物への1%の混入物による可能性を否定できなかった。世界で最初に物を言う、難しさである。そこで、1)好中球遊走活性がモノクローナル抗体で中和できるか、モノクローナル抗体を用いてアフィニティ精製できるかどうか、2)cDNAクローニングを行い、そこから演繹される好中球遊走活性体を化学的に全合成もしくは、遺伝子組み換え型蛋白を発現しその活性を確認するかいずれかで、私たちが得たものが正しいことを証明し、その後論文発表することにした。結果的には、私たちはこれらの全ての作業を速やかに完了し、1987年の12月のProc. Nat. Acad. Sci. USA誌に発表した3)。現在、一部にSandozと共同でスイスのMarco Baggioliniらが私たちと同時に好中球遊走因子、IL-8を発見したとする人たちがいるがそれは間違いである。彼らは1987年10月ハワイ、カウアイ島で行われた国際学会、Leukocyte Biologyで吉村君が口頭発表し、私たちの好中球遊走因子の精製とその部分アミノ酸配列を観て(Sandozの研究者がなんとその座長をしていた)、スイスに帰国後慌てて精製、部分アミノ酸配列解析し私たちと同じものを追いかけていたことを確認した。NCIの私たちあてに手紙で、共同研究の申し入れとcDNAの供給を求める一方、速報誌BBRCに同じ12月好中球遊走因子の精製を発表した次第である。


IL-8のcDNAクローニング
1980年代は分子生物学的技術、バイオテクノロジーの免疫学分野への導入が盛んに行われた。免疫反応・生体防御反応にかかわる様々な生理活性物質が精製されそれらの遺伝子クローニングがなされた。それらの中には現在の日本免疫学界の中心的存在である研究者らが大きく貢献した。INF-αとG-CSFの長田重一、IFN-βとIL-2の谷口維紹、IL-3/4の新井賢一、IL-4の本庶祐、IL-5の高津聖志、IL-6の平野俊夫・岸本忠三氏などである。私は、免疫学分野には生化学方面から入ったために研究の当初は微量生理活性物質の純化とそれを通した構造決定に徹した。一方、いつか自分たちが新規な蛋白質を発見した時は、自分でcDNAクローニングを行おうと心に誓っていた。IL-8の精製とともに、その時が来た。他人に任せたことによるIL-1の遺伝子クローニングの敗北を教訓に、直ちにLPS-刺激ヒト単球cDNAライブラリーの作成から、アミノ酸部分配列に基づくオリゴプローブを用いたライブラリースクリーニング、cDNA配列決定まで全て自分自身で行った4)。もちろん、この仕事にはこれらの技術を持っていた研究者、とりわけ森下和広君(現宮崎大学教授)、小林芳郎先生(現東邦大学教授)らが手ほどきをしてくれた。さらに、遺伝子組換え型蛋白の大腸菌での大量発現には大日本製薬の山田正明氏らに多大な御協力をいただいた。私たちはNIHの2つの研究室との共同研究にてこの遺伝子組み換え型IL-8を用いて1年以内に各磁気共鳴分析法(nuclear magnetic resonance analysis: NMR)5)とX線結晶構造回析6)にてIL-8の3次元構造を明らかにした。歴史的にはNMRがX線結晶構造回析に先行し初めてのケースとなった。1988年の段階で既に構造解析を基礎として活性部位を予測し、それに基づく拮抗剤を作ろうという作業を行っていた。


MCAF/MCP-1の発見
吉村君とIL-8の精製中、単球走化性活性も同時に測定していた。HPLCの分画の数箇所に活性が検出された。しかし、LPS-刺激白血球培養上澄中の量はIL-8と異なり少なかったことからIL-8の仕事が一段落するまで保留した。IL-8のcDNAクローニングができた段階で吉村君にHPLCの操作を教え、Edの研究室で単球走化性因子の精製を継続した。しかし、1〜2年たっても吉村君は精製できなかった。この間、(私と吉村君の白血球走化性因子プロジェクトの存在すら知らなかった両方の研究室のボスである)EdとJoeがpriorityの取り合いで仲が悪くなり、吉村君と私のコミュニケーションも取りづらくなっていた。そこで、私の部屋にデンマークから来ていたChristian G. Larsen(Chris)に吉村君が一度測定して単球走化性活性を拾えなかったIL-1精製用に大量に保有していたTHP-1細胞の培養上澄を再度調べさせると、今度は活性がありすぎて1,000倍、10,000倍希釈しないと活性が検出されないというのである(白血球走化性因子の特色で、高濃度すぎると細胞は方向を認識できなくなるのである)。そこで、THP-1細胞培養上澄中の単球走化性活性をChrisと一緒に精製した。なんと、1週間で成功した7)。最初のアミノ酸配列決定はアミノ末端がブロックされていたため、CNBrで切断し再度解析したところ新規蛋白質であることが判明した。しばらく、ChrisがcDNAクローニングを試みたがうまく行かなかったので、大日本製薬の山田氏にクローニングを依頼したところ、なんとcDNAライブラリーのスクリーニングからクローニング、cNDA配列決定を1週間でやりぬき、日本特許庁への特許申請を1989年の1月1日に行った。吉村君も私たちと同じころに単球走化性因子の精製、cDNAクローニングに成功し、2月には、吉村君らと私たちは別々に、同時に論文発表した。私たちは単球性走化性因子の国際特許を取得できた。


IL-8、MCAFの生理活性の実証
1990年日本に帰国後、私は多くの臨床研究者と共同研究を展開し、LPS誘導性皮膚炎症、LPS/IL-1誘導性急性関節炎、血清複合体(serum sickness)による急性腎炎、肺虚血後再灌流傷害8)、敗血症に伴う二次性急性肺傷害、脳梗塞、遅延型過敏症モデルにおいてIL-8が好中球浸潤ならびに活性化に中心的役割を果たし、IL-8をブロックすることにより好中球浸潤を伴う臓器障害が防止できることを、MCAFに関しては、ラット馬杉腎炎型慢性腎炎にともなう単球浸潤、蛋白尿の出現、半月体形成、腎硬化症による腎不全出現9)、動脈硬化症のモデルとされる内頚動脈内皮細胞損傷後の内皮の肥厚や植物アルカロイド、モノクロタリンによるラット肺動脈高血圧症による右室肥大が抗MCAF抗体でブロックできることを明らかにした。これらの私達の仕事以後、米国のグループによりIL-8受容体ホモローグ、MCAFならびにその受容体(CCR2)遺伝子欠損マウスが作製されIL-8, MCAFなどのケモカインが炎症時の特異的白血球浸潤に必須であることが確認された。


ケモカイン発見の意義
局所炎症・免疫反応時に不可避に起こっている事象は、生体侵襲を受けた組織への特異的白血球サブセットの浸潤であり、この白血球浸潤無くして、炎症免疫反応は成立しない。別の言葉で言えば、安全な特異的白血球浸潤を制御する方法を提供できれば多くの疾患治療が従来の薬剤とは全く異なる方法で可能になる。歴史的には、この炎症・免疫反応時の最も基本である特異的白血球の組織浸潤機序は永く不明であったが、私達のケモカインの発見と細胞接着因子に関する仕事によりその謎が基本的に解けたといっても過言ではない。ケモカインの発見により、様々な炎症・免疫疾患研究が今までの固定病理標本を用いた静止画像から、細胞の動的移動・相互作用を見据えた動画的世界に変換した。ケモカインによる炎症・免疫反応のspatio-temporal controlの実態がリアルに実証される中で炎症(自然免疫)と獲得免疫が不可分なものと誰もが認めるようになった。ケモカイン受容体CXCR4, CCR5がHIV感染co-receptorであることが判明したことはAIDS研究に大きなインパクトを与えた。ケモカインを通したさらなる基礎生命科学研究への貢献と、ケモカインとそれらの受容体システムを標的とした炎症・免疫制御剤の開発を通した人々への貢献を祈念する。



参考文献
1)Matsushima K, Durum SK, Kimball ES, Oppenheim JJ. Purification of human interleukin 1 from human monocyte culture supernatants and identity of thymocyte comitogenic factor, fibroblast-proliferation factor, acute-phase protein-inducing factor, and endogenous pyrogen. Cell Immunol. 92:290-301, 1985.
2)Matsushima K, Copeland TD, Onozaki K, Oppenheim JJ. Purification and biochemical characteristics of two distinct human interleukins 1 from the myelomonocytic THP-1 cell line. Biochemistry. 25:3424-3429, 1986.
3)Yoshimura T, Matsushima K, Tanaka S, Robinson EA, Appella E, Oppenheim JJ, Leonard EJ. Purification of a human monocyte-derived neutrophil chemotactic factor that has peptide sequence similarity to other host defense cytokines. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 84:9233-9237, 1987.
4)Matsushima K, Morishita K, Yoshimura T, Lavu S, Kobayashi Y, Lew W, Appella E, Kung HF, Leonard EJ, Oppenheim JJ. Molecular cloning of a human monocyte-derived neutrophil chemotactic factor (MDNCF) and the induction of MDNCF mRNA by interleukin 1 and tumor necrosis factor. J. Exp. Med. 167:1883-1893, 1988.
5)Clore GM, Appella E, Yamada M, Matsushima K, Gronenborn AM. Three-dimensional structure of interleukin 8 in solution. Biochemistry 29:1689-1696, 1990.
6)Baldwin ET, Franklin KA, Appella E, Yamada M, Matsushima K, Wlodawer A, Weber IT. Crystallization of human interleukin-8. A protein chemotactic for neutrophIL-s and T-lymphocytes. J. Biol. Chem. 265:6851-6853, 1990.
7)Matsushima K, Larsen CG, DuBois GC, Oppenheim JJ. Purification and characterization of a novel monocyte chemotactic and activating factor produced by a human myelomonocytic cell line. J. Exp. Med. 169:1485-1490, 1989.
8)Sekido N, Mukaida N, Harada A, Nakanishi I, Watanabe Y, Matsushima K. Prevention of lung reperfusion injury in rabbits by a monoclonal antibody against interleukin-8. Nature 365:654-657, 1993.
9)Wada T, Yokoyama H, Furuichi K, Kobayashi KI, Harada K, Naruto M, Su SB, Akiyama M, Mukaida N, Matsushima K. Intervention of crescentic glomerulonephritis by antibodies to monocyte chemotactic and activating factor (MCAF/MCP-1). FASEB J. 10:1418-1425, 1996.