私の研究史からみた炎症と免疫反応のリンク

松島 綱治


私は大学院時代に急性相タンパク質誘導因子に興味を持ちサイトカイン研究の世界に入った。1980年初頭、活性化マクロファージが産生するファクターが肝臓における急性相タンパク質誘導を引き起こすことがNIHのJ. Sipe, J.J.Oppenheimらにより発表され、私はこれを契機にNIHに留学することに成った。当時は、活性化白血球が産生する様々な生理活性物質を精製することによりそれらの物質としての本体を明らかにしようと言うデッドヒートが展開されていた。すなわち、IL-1, 2, 3, 4, 5, 6の精製、そしてそこからもたらされる部分アミノ酸配列情報に基づくcDNA cloningであった。私はNIHに留学後1年余でIL-1を精製し、初めて精製物質がthymocyte comitogenic activity, fibroblast proliferation activity, endogenous pyrogenic activityならびに急性相タンパク質誘導活性を有することを証明した。様々な分野で研究されていた物質が同一だったのである。後にJ. Gauldieが直接肝細胞に作用して急性相タンパク質を誘導するのはIL-1ではなく、IL-6であることを証明し、IL-1の急性相タンパク質誘導作用はIL-6を介して起こることが明らかになった(私からanti-IL-1 antibody、岸本先生からanti-IL 6 antibodyが供給された)。IL-1の精製の中でさらにいくつかの重要な仕事をした。同一のアミノ酸末端配列を有するIL-1betaの成熟体をTHP-1細胞の培養上澄液とcell lysateから精製し、IL-1betaのprocessing enzymeがTHP-1細胞にあることを示した。このことが、後のImmunexによるIL-1beta converting enzyme(ICE, caspase-1)の同定に繋がった。また、精製IL-1を用いて共同研究者の小野崎先生とIL-1に直接腫瘍抑制作用があることを報告し、IL-1とTNF-alphaの活性が類似していることを初めて示した。一方、当時好中球走化性因子がIL-1と報告されていたが、私の精製したIL-1alpha, betaにはそのような活性がみられなかった。そこで、1987年に熊本大学からNCI-Frederickに留学してきた吉村君と好中球走化性因子の精製にとりかかった。IL-1, TNFとは簡単にHPLC-gel filtrationで分離できる分画に好中球走化性活性が検出され、4 LのヒトPBMCの培養上澄から100 ugの精製物が得られた。部分アミノ酸配列をもとにcDNA cloningにも成功した。これが、ケモカインのプロトタイプIL-8の発見である。当時誰も生体内における様々な炎症・免疫反応時の特異的白血球サブセット移動を制御する巨大分子群があるとは夢にも思っていなかった。多くの研究者は、白血球遊走はin vitro artefactとしかみていなかった、というのが正直なところだったろうと思う。


ケモカイン発見の意義
  永いconditioned media/部分生成物を用いたin vitroを中心としたサイトカイン研究が、1980年代後半から遺伝子組み換えタンパク質を用い、monoclonal antibodyや生体工学マウスを用いた個体レベルでの研究に大きく転換した。ケモカイン研究もその例外ではない。炎症・免疫反応時の特異的白血球浸潤を制御する分子がケモカインと判明したことにより、様々な炎症・免疫疾患研 究が今までの固定病理標本を用いた静止画像から、細胞の動的移動・相互作用を見据えた動画的世界変換した。炎症反応と免疫応答が異なった研究グループにより解析され、概念的にも違うものと認識されていたが、樹状細胞の再認識とケモカインによるspatio-temporal controlの実態がリアルに実証される中で炎症(自然免疫)と獲得免疫が不可分なものとだれもが認めるようになった。これに、拍車をかけたのがいうまでもなくToll様受容体(Toll-like receptor, TLR)に代表される病原体認識機構研究である。先人たちが、皮下免疫を行う時に経験的に用いてきたadjuvantの分子実体/機序が明らかになったのである。


今後の課題
1)基礎研究
 病原体が侵入する炎症局所と所属リンパ節を想定した獲得免疫反応(primary response)はこの間精力的に解析され大きな進歩をみせたが、未だすべての白血球サブセットを加えた解析ができている訳ではない。とりわけ、樹状細胞サブセットと制御性T細胞(regulatory T cell, Treg)による制御に関してはこれからである。また、B細胞による抗体産生制御に参画する細胞サブセット、場、ならびにその分子機序も不明なところが多い。さらに、CD4+ Thメモリー、CD8+ CTLメモリー、B細胞メモリーの動的平衡・維持機序も非常に重要な課題として今、精力的に研究されている。これらの反応においてもケモカインは特異的白血球サブセット移動のみならず、stromal cellsを含めた細胞間相互作用、ニッチ形成に必須な役目を果たすものと想定される。また、これらの反応がin vivo imagingを通して可視化されるものと期待される。


2)治療/ワクチンへの応用
 炎症・免疫基礎研究の大きな特徴は、臨床・予防医学と直結することである。それゆえ、すでに優秀な基礎免疫学者の仕事は臨床研究に大きな貢献を果たしている。この10年間世界中のメガファーマがケモカインとケモカイン受容体を標的とした創薬開発を行っているが、未だに開発されたものはない。ケモカインが本物なら、必ずケモカイン研究をもとに創薬が出てくるものと期待している。私の関与する共同開発では、現在humanized CCR4抗体を用いてTh2 populationを減らしアレルギー性疾患治療・予防をはかろうとしている。Th1/Th2 paradigm論が正しかったかどうか、検証する臨床治験になると期待している。その他、単球走化性因子MCP-1の受容体CCR2などの低分子antagonists開発研究を行っている。様々な新興・再興感染症に対する有効ワクチン開発は世界的急務である。しかしながら、日本の免疫学者は一部を除いて生きた病原微生物を用いた感染症免疫研究、ワクチン開発には消極的である。これは、日本の研究環境・予算の貧困さの現れでもあるが、研究者自身の考え方も反映しているものと考える。優秀な、若い免疫学者が生きた病原微生物を用いた生きた免疫研究を通してワクチン開発に貢献することを念願している。


3)再生医療
 炎症研究で残された最も大きな課題の一つは肉芽・線維化である。これらを、従来の単純な慢性炎症のendpointとしてとらえるのではなく、免疫反応を伴う動的病態ととらえるべきである。最近、臓器線維化をもたらす細胞としてCXCR4+CCR7+血液循環fibrocyteが注目されている。この細胞が炎症組織に動員され、組織においてCCR2+ fibroblasts/myofibroblastsになり線維化をもたらす。また、肝硬変、腎硬化症、肺線維症などの臓器線維化は治療不可能なものとされていたが、今再生医療を通してこれらが修復・再生できるのではという期待がもたれている。いわゆるmesenchymal stem cell(MSC, 間葉系幹細胞)が上皮系細胞に分化するというのである。Fibrocytes,MSCの炎症臓器への動員もケモカインにより制御されているものと想定されており、今ケモカインと炎症・再生研究は新たな段階に入ったといっても過言ではないだろう。


若者へ一言
 生命現象の根幹に関わる原理の解明、もしくはヒトのためになる臨床・応用研究をめざせ